コラム・インタビュー

LoanDEAL(レンタル移籍)

なぜイノベーター資質は越境で伸びるのか?~260名のデータが示す育成効果とメカニズム~

「イノベーター人材・変革をリードする人材をどう育てるのか?」

人的資本経営やイノベーション人材育成が求められる中で、多くの企業がこの問いに向き合っています。

一方で、「どのような経験がイノベーター人材育成に必要なのか」「成長の中身をどう効果測定し、再現性を持たせるのか」といった点に悩む声も多く聞かれます。

今回のイベントでは、クリステンセンのイノベーション理論を日本で実践するインディージャパンの津田真吾さんと、人事データ分析を専門とするVITAL DESIGNの渡邉貴志さんにご登壇いただき、ローンディールの野島朋子がモデレーターを務めました。イノベーターDNA診断を用いたレンタル移籍の効果検証データを軸に、これらの問いに迫ります。

※ 本レポート記事は、2026年4月に開催された「なぜイノベーター資質は“越境“で伸びるのか? 260名のデータが示す、育成効果とメカニズム」の内容を要約したものです。

イノベーターの正体は「知識」でも「IQ」でもなく「行動特性」だった

野島:まず、イノベーターDNA診断の背景と、「イノベーター資質とは何か」について、教えてください。

津田:インディージャパンは2011年に、クリステンセンのイノベーション理論を日本で実践するために立ち上げた会社で、新規事業の立ち上げ支援やスタートアップ支援に取り組んでいます。今日ご紹介する「イノベーターのDNA」は、クリステンセンらが8年をかけて行った研究を土台にしています。

この研究の問いはシンプルで、「スタートアップで大成功した起業家」と「大企業の優秀な経営者」を比較したときに何が違うのかということです。当初、研究チームはIQの差や知識量に注目し、いろいろな仮説を立ててインタビューを重ねたのですが、どの仮説も差が出ませんでした。試行錯誤を繰り返して8年かけてたどり着いた答えが、「行動特性が本質的に違う」というものでした。

Profile 津田真吾さん(株式会社インディージャパン 代表取締役 テクニカルディレクター )

早稲田大学理工学部卒。IBMおよび日立にてハードディスクの研究開発に10年以上従事し、20件以上の特許を取得。コンサルティングファームを経てINDEE Japanを共同創業。ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が率いたイノサイト社と提携し、新規事業開発や海外展開支援、スタートアップ投資を多数手がける。Ubie、Thermalyticaなどへの投資実績を持ち、MENOUの共同創業にも関与。著書には『イノベーションのための超・直観力』、「ジョブ理論」の国内普及にも貢献。

野島:IQでも知識でもなく、行動特性だったとは驚きですね。

津田:これまでの「優秀さ」の指標は業務の遂行能力、つまり実行力でした。ところが、Amazonのジェフ・ベゾスやブラックベリーの創業者のような方々は、実行力はむしろ平均的かやや下回るくらい。圧倒的に優れていたのが「新たなチャンスを見つける力」、つまり発見力でした。

発見力を構成するのが四つの行動特性です。

  • 質問力: 当たり前を疑い、「なぜ?」「もし〜だったら?」という問いを投げ続ける力。
  • 観察力: 顧客や現場を微細に観察し、言語化されていないニーズを汲み取る力。
  • ネットワーク力: 自分とは異なる背景を持つ人々とつながり、新しい視点を取り入れる力。
  • 実験力: 失敗を恐れず、小さく試して学習を回す力。

これら四つの行動によって得られた一次情報を関連付けることで、革新的なビジネスアイデアが生まれるというモデルです。

重要なのは、これらは「生まれ持った才能(センス)」ではなく「行動習慣」であるという点です。行動特性である以上、鍛えることができます。「イノベーションのDNA」という名前を聞くと、生まれつき変えられないものに思われがちですが、そうではなく行動特性だからこそ修正が可能なんです。

また、発見力が求められるのはスタートアップだけではありません。調査の結果、大企業のCEOや事業部門長も、発見力が高い傾向にありました。業界構造の変化が激しい今、新規事業に関係ないと思っている人も含め、ビジネスパーソンとしてこの行動特性は重要だと考えています。

野島:行動特性だからこそ鍛えることができる、というのも個人的には希望がもてました。

260名のデータで証明された、レンタル移籍の育成効果

野島:続いて、イノベーターDNA診断を使ってレンタル移籍の効果を分析していただいた渡邉さん、結果をご紹介いただけますか。

渡邉:レンタル移籍の前後でイノベーターDNA診断を受けた260名のスコアの変化を統計的に検証しました。

検証したポイントは二つです。一つは「イノベーションDNAモデルの因果関係が、レンタル移籍経験者にも成立するか」。もう一つは「レンタル移籍前後でスコアが統計的に有意に上がったか」です。

Profile 渡邉貴志さん(株式会社VITAL DESIGN 代表)

カナダのLangara College、上智大学を経て、豊田通商・伊藤忠商事にて約13年間、人事・組織開発および新規事業開発に従事。豊田通商では全社横断の新規事業開発プロジェクトをリードし、100件以上の案件の審査・伴走を担当。伊藤忠商事では人事データ責任者として約3万人分のデータを分析し、組織風土改革を推進。現在はVITAL DESIGN代表として、データサイエンスと心理分析を掛け合わせた組織開発・人材戦略支援を行う。米国公認会計士(USCPA)。

野島:結果はいかがでしたか?

渡邉:どちらも、はっきりとした結果が出ました。まず因果モデルの適合度については、かなり厳しい検証基準を設けていましたが全部クリアし、イノベーターDNAの因果構造と、レンタル移籍経験者の行動パターンがぴったり一致しました。

次に、前後の変化についても、重要7項目すべてで統計的に有意な上昇が確認されました。例えば「現状に異を唱える」スコアは5.095から5.418に上昇し、その差が偶然とは言えないレベルで上がっているという検証結果が出ています。有意差を表すP値が0.1%未満という水準を満たす項目も複数あり、これは「ギリギリ有意」ではなく、かなり大幅に差が出たと言えるものです。

人事施策の効果検証をたくさん手がけてきましたが、ここまで全項目が大幅に上がるケースはほとんどありません。正直、私自身も大変驚きました。

ベンチャーという環境が「行動特性」を変えるメカニズム

野島:なぜレンタル移籍でここまで変化が起きるのか。データから改めて見えてきた部分も含めて、現場の実感をお話しします。

レンタル移籍者は、5〜10名規模のベンチャー企業にフルタイムで半年から1年ほど入ります。新しい環境に入り、仕事の進め方やコミュニケーションなど、これまでのやり方が通用しないことに気づかされます。そんな中で、「自分は、そもそも何ができるのだろうか?」と自問しながら、強みを発揮するために試行錯誤し、成功体験を捨てて違うやり方を試す。それを何度も高速で繰り返していく。正解がない、誰かが決めてくれるわけでもない、気づいたことは自分で動くしかない、という「葛藤期」を経て、行動量が増え、成果と周囲の信頼を積み重ねて、最終的には、自分がいなくなった後も仕事が回る仕組みを自らつくるという、当事者意識まで育まれていきます。

野島:こういった環境の中で得られるスキルは、イノベーターの行動特性と合致しているということを改めて感じました。

正解がない中で自分で決め続けることで、少しずつ自信がつき、「勇気」も鍛えられているのかなと感じています。

(ローンディール・野島朋子)

渡邉:その説明を聞いて、腑に落ちたデータがあります。今回、前後で最も大きく上昇し、かつ関連付ける力に最も強く影響を与えていたのもネットワーク力でした。後ろ盾がない中でいろんな人を自発的に巻き込んでいかなくてはいけない環境が、スコアを大幅に上げたんだろうなと。そうして多くの人の話を聞いて情報を関連付けていくうちに、イノベーター行動が強化されたんだろうと思います。

津田:モデルに対して綺麗すぎる結果が出て、ちょっとびっくりしています(笑)。正解がない中で、”とにかく素早く実験して検証することが正解”だということに気づくまで相当もがく。その経験をしているのと、していないのとでは、イノベーター力は相当違うだろうというのが、データを通じて検証できたというのはすごいことだと思います。

戻ってからが本番——イノベーターを組織で生かすために

野島:帰任後に実際に現場で活躍しているのかというご質問も多くいただきます。レンタル移籍経験者は、新規事業だけでなく、既存事業の中での新しいサービスや企画の立ち上げ、DXの推進、ベンチャーと大企業をつなぐオープンイノベーションの推進、そして組織風土改革など、多方面で活躍しています。この10年の実践を通して、周囲に大きな影響を与えている移籍者を見てきました。

レンタル移籍者に活躍してもらうためには組織側として何が重要になるでしょうか?

津田:まず重要なのは「共通言語をつくる」ことです。「行動特性」「発見力」「越境」といったキーワードが組織内に浸透し、その意味が共有されることが第一歩です。

次のステップとして、帰任した人のストーリーや事例を社内で共有すること。そしてマネジメントがその行動を奨励していく文化をつくること——この三段階が定着への道筋です。

渡邉:受け入れ側の準備と、ある種の忍耐力が本当に大事だと痛感しています。行動特性がこれだけ変わることがデータで証明されたということは、受け入れる組織が変わっていないとギャップが大きくなり、学んだことを生かせないリスクも同時にある、ということでもあります。

以前、3万人規模のデータ分析から、イノベーター行動を引き出す条件である「FANSモデル」を導き出しました。

  • 「F:貢献実感」——自分の仕事が顧客に喜んでもらえているという認識
  • 「A:自己決定」——自分で決められる裁量の付与
  • 「N:新規性」——誰もやっていないことを任せる姿勢
  • 「S:スピード感」——決裁プロセスを減らしてやりたいことをすぐ動かせる環境

この4つを意識してマネジメントすることで、帰任した人がイノベーター行動を発揮しやすい環境を整えていただくといいと思います。

いただいたご質問の一部を紹介します

行動特性を鍛えるのに、40代・50代では遅いでしょうか?

津田:全然遅くありません。私たちが投資しているベンチャーでも40代での起業は多く、35歳以上で起業された方の方が成功率は高いんです。9割のビジネスはB2Bですから、ある程度の企業経験があって「うちの産業ってこうなんじゃないの?」という観察ができることはすべてプラスになります。ベゾスも一通りの社会経験を積んでから起業していますしね。

レンタル移籍のような越境ができない場合、日常で発見力を鍛える方法はありますか?

津田:イノベーターDNA診断を受けると、日常で取り組める行動が記載されたワークシートが付いてきます。例えば「毎日通勤ルートを変えてみる」「違う業界の団体に参加してみる」といったものです。要は、日常のルーティン以外の行動を意図的にすることで越境的な体験ができます。定例会議でいつもと違う質問をしてみるだけでも、発見力を鍛えるきっかけになります。

野島:私たちが提供しているオンラインプログラム「Outsight」では、他社の方やベンチャー経営者との意見交換を週1回オンラインでコンパクトに実施しています。それだけでもかなり視野が広がりますし、質問力や発見力が鍛えられると感じています。

行動特性が変わらない人もいるのでしょうか?

渡邉:全員が変わることを保証するデータではありません。今回の統計処理は、平均値の上がり幅が偶然とは言えないレベルで上がったことを検証したものです。変わらなかった人や悪化した人が一定数いる可能性も十分あります。ただ、ここまで大幅に上がっているケースでは、ほとんどの人にポジティブな効果があったと言えます。

越境してそのまま帰らなくなってしまう人はいますか?離職率はどの程度でしょうか?

野島:帰任後1年以内の離職率は3.5%というデータがあります。日本の平均離職率が約11.9%ですから、それと比べてかなり低い水準です。

レンタル移籍に出てくる方は選抜されているので、帰任後も学びを生かしたいという気持ちが強いと思います。それに加えて、新しいことに挑戦できる受け入れ組織が整っていれば、モチベーションはさらに高まり、活躍される可能性が高まります。

その他、Q&Aを知りたい方はこちら

野島:今日は「越境でイノベーター資質が伸びる」ということが、データ・理論・実体験としても示されました。同時に、「戻ってからどう組織で生かすか」という全体設計が鍵だということも、改めて感じています。津田さん、渡邉さん、ありがとうございました。

Fin

協力:株式会社インディージャパン、株式会社VITAL DESIGN

レポート:ローンディール編集部

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